小径腎がんとは
腎臓は背部に左右1つずつあり、長さ15cm、重さ150-200gのそら豆状の臓器です。主な働きは尿をつくり体内の不要物質を排泄することですが、その他に血圧や造血、骨の状態を調節する働きも担っています。
腎がんは毎年10万人あたり8~10人程度の発生率で、がんの中では頻度の少ないがんですが、現在増加傾向にあります。
年齢では40歳代から70歳代に多く発症し、近年では30歳代以下の若年発症もしばしばみられます。男女比は2:1と言われています。
小径腎がんとは俗に4cm以下の腎がんのことです。
CT、Echoといった画像検査の発達により、小径腎がんとして偶然見つかる腎腫瘍が増えています。
症状
腎がんが大きくなると生じる症状としては以下の3つが挙げられます。
- 血尿
- 腹部腫瘤
- 疼痛
「古典的3主徴」と言われていますが、あくまで古典的で、現在は検診や他の疾患の治療中に偶然発見される場合(偶発腎腫瘍)が多く、無症状で来院される方の方が多いです。
診断
腎がんの診断に用いられる画像検査は主に以下の3つがあります。
① 超音波検査(Echo)
被ばくがなく、簡便です。また、腎腫瘍生検(後述)の穿刺ルートの確認にも有効です。ドップラーエコーという血流を描出できるモードを使えば、腫瘍内部の血流の評価もできます。
しかし、この検査のみで腫瘍が癌であるという確定診断はできません。
② 造影CT(腎dynamic CT)
腎癌は造影剤に良く染まるため、診断確定のために必須の検査です。この検査のみでほぼ確定診断がつきます。しかし、造影剤を使用するため腎機能が悪いと使用できません。
③ MRI
造影剤が使用できない場合や造影CTで腎癌と確定できないときに補助的に行います。
動脈相で早期造影効果を示し、静脈相でwash out(洗い出し)がみられるのが特徴
④ 腎腫瘍生検
画像検査にて典型的な造影効果を認めず、腎がんかどうかの診断が難しいときには CTや超音波で腫瘍を確認しながら腫瘍を生検し、病理学的な診断を行います。 また、凍結療法を施行する予定の方は、原則必ず生検を行い、病理診断をつけてから治療を行います。約2泊3日の入院が必要です。
図:腎がんの造影CT所見
動脈相で早期造影効果を示し、静脈相でwash out(洗い出し)がみられるのが特徴
治療および手術
腎癌は放射線や化学療法に対する感受性が低く、治療の原則は手術による摘出です。
また、小径腎癌の治療の原則は「正常な腎臓はできる限り残す!!」ですので、可能な限り腫瘍の部分だけを切除・治療をします。しかし、腫瘍の大きさと部位により、部分切除が難しいときは、腎の全摘出をします。
当院では年齢やその他の合併症のため腎部分切除術が適応とならない方のために、より低侵襲な腎凍結療法という治療も行っております。もちろん保険診療で治療可能です。
腎部分切除術
腎部分切除術とは
腫瘍の部分のみを切除し、正常な腎臓をなるべく残してあげる手術で、小径腎がん治療の標準治療です。腎臓は血流の良い臓器であるため、切除に伴う出血に注意が必要です。
腹腔鏡手術
小さい傷(5-10mmの傷が5-6か所)で手術でき、侵襲が少ないため、術後の痛みが少なく術後の回復が早いのが特徴です。基本的には腹腔鏡手術で行います。手術時間は約3-4時間、入院期間は約7-10日間です。
開腹手術
腹部の手術歴がある場合、腫瘍の部位・大きさによっては開腹手術となる場合があります。開腹手術の場合、約10-15cm程度の皮膚切開が必要になります。手術時間は3-4時間、入院期間は約10日間です。
腎部分切除術の流れ
腎部分切除は腎がんを正常組織の一部とともにくり抜き、くり抜いた後クレーターのようになった腎臓を縫い合わせる手術です。腎臓は血流がとても多い臓器です。このためできるだけ出血を少なくするように腎臓の血流を一時止める作業を手術中に行います。
- 腎臓を周囲から剥がして(剥離して)、がんのある部位をしっかりと確認できるようにする。
- 腎臓の動脈をクリップで挟んで一時的に血流を止める(血流を遮断する)。
- 腫瘍を電気メスやハサミを使い切り取る。
- 腫瘍がなくなった部分を針と糸で縫い合わせる(止血)。
- 止血が十分であることを確認して腎動脈にかかっているクリップを外して血流を再開させる。
- クリップを外した後にも出血がないことを確認する。
- 廃液のための管(ドレーン)を挿入する。
- 傷を閉じて手術終了。
腎部分切除術の合併症
腎部分切除術で注意しなくてはいけない三大合併症は以下の通りです。
①術後出血
術中を含め、腎切除面からの出血が持続することがあります。
②尿漏
腫瘍が腎盂(腎臓の中で一旦尿がたまるスペース)に近い場合、腎盂が開放し、尿が腎臓の外に漏出してしまうことがあります。尿管ステントを留置し対応します。
③仮性動脈瘤(稀)
術後10-15日目頃に強血尿が出たら要注意です。
残った腎臓を縫合したときに小さくてもろい血管ができてしまい、そこから出血してしまうことがあります。経カテーテル的に止血術を行います。
その他の手術一般に関する合併症については主治医にお問い合わせください。
腎凍結療法
腎凍結療法とは
凍結療法とは、がんの病巣を凍結させることにより細胞にダメージをあたえ、病気を治療する方法です。
治療は、凍結治療装置を用いプローブと呼ばれる直径約1.47mmの細い管を局所麻酔下に病巣部へ刺入して、このプローブにて病巣部を急速に冷却し、凍結させることによって行われます。
この凍結治療法の利点は、外科的切除術のような方法に比較して、治療が簡単なこと治療時間および回復期間が短いこと出血も少ないことなどが上げられます。
当院ではこの治療法が保険収載される以前から臨床研究の一環として、13名の小さな腎細胞がんの患者さまに凍結治療法を行い、重い合併症もなく短期間の入院で済んでいます。この結果を受け、2011年7月に小径腎癌に対する凍結療法が保険収載されました。
以降、2011年9月から2017年12月の間に当院では計200人以上の患者さまに凍結療法を施行してきました。
当院における凍結療法の適応
上記の全てを満たす方が、凍結療法の適応となります。
① | 腫瘍径が4cm以下で造影CTまたはMRIで腎細胞癌の所見と一致する(一部4cm以上も適応) |
---|---|
② | 充実性腫瘍(一部嚢胞性腫瘍も適応) |
③ | 腫瘍部位は外側突出が望ましい(埋没型や肝、腸管と接している症例も適応) |
④ | 穿刺、凍結療法中に持続的な腹臥位の保持が可能 |
⑤ | 標準治療が手術である前提を承知の上、合併症や本人の希望で凍結療法を希望される場合 |
初診から凍結療法までの流れ
凍結療法を希望され、来院いただいた場合の検査、治療の流れです。
1画像検査
超音波検査・造影CT検査そして場合によってはMRI検査を施行していただきます。
この画像結果をもとに放射線科医との合同カンファレンスにより適応を最終決定させていただきます。
2腎腫瘍生検
凍結療法の適応と判断され、当院での凍結療法を希望された場合、腎癌の確定診断、組職型、悪制度の診断のために、約2泊3日の入院・検査をお受けいただきます。(詳細は腎腫瘍生検の項をご参照ください。)
3マーキングおよび凍結療法
CTでは腫瘍と正常腎組職とのコントラストがつきにくいため、治療の前に腫瘍にマーキングを行う必要があります。具体的には、凍結療法の数日前に入院していただき、大腿の動脈から血管造影をし、腎動脈からさらには腫瘍へ流入する細い動脈を同定し、そこから腫瘍にリピオドールという物質を注入し、凍結療法の際の目印にします。凍結療法施行後は翌日のCTおよび採血で異常がなければ治療数日で退院可能です。
凍結療法の流れ
治療はCTで病巣部をモニターしながら、凍結治療装置を用い直径約2mmのプローブと呼ばれる細い管を皮膚から病巣部へ刺入(穿刺)します。穿刺に対する痛みを和らげるためには局所麻酔を用います。このプローブにて病巣部を急速に冷却し、凍結させることによって凍結治療が行われます。
治療時間は約2時間~2時間半です。治療中はバイタルサイン(血圧・脈拍・体温)、心電図、自覚症状・他覚症状を観察します。
治療翌日に血液・尿検査、CT検査を行い、出血がないことを確認し治療後数日で退院となります。
治療効果の確認は術後4週間目と術後3、6、12ヶ月目に造影CTを行います。
図 凍結療法の治療フロー
Day | -4 | -3 | -2 | -1 | 0 | 1 | 2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
入院 | TAE (リピオドールマーキング) |
凍結療法 | CT 採血 |
退院 | |||
ベッド上安静 VSチェック 術後より飲食可能 |
検創 安静解除 |
図:凍結治療機器
図:凍結療法のイメージ
凍結療法の合併症
比較的侵襲が少ないことが凍結療法の魅力ですが、合併症がないわけではありません。治療を要するような合併症は海外の報告では約5-10%程度と言われており、当院では約6.1%の方に認めました。以下に起こりうる主な合併症を列記します。
発熱・感染 | 治療に伴い1-3日間は熱が出ることがあります。それ以降に発熱が続く場合には感染の可能性があります。肺炎、創感染、腎周囲膿瘍、腹膜炎、腹腔内膿瘍等の可能性があります。 |
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出血・血尿 | 治療後軽度の腎周囲血腫は高い確率でおきます。場合によっては輸血の可能性や、動脈塞栓術による止血術を要する場合があります。 |
疼痛 | 治療後数日間は創痛や治療に伴う疼痛があります。鎮痛剤で対応します。 |
尿漏 | 腫瘍が腎盂に近い場合、尿が腎臓の外に漏れだす可能性があります。その場合、尿管ステントという管を挿入する可能性があります。 |
他臓器凍傷(肺、肝臓、脾臓、膵臓、十二指腸・小腸大腸等) | 腫瘍の部位、大きさなどにより腫瘍が隣接する臓器に近接する場合、これらの臓器を穿刺、凍結する可能性があります。場合によって外科的に修復を要する場合があります。 |
血栓塞栓症 | 下肢静脈血栓による肺塞栓症や心筋梗塞および脳梗塞の危険性があります。特に心臓や脳の既往症があり、抗血小板薬や抗凝固薬を休薬して治療を受ける方はこのリスクが高くなります。 |
その他の手術一般に関する合併症については主治医にお問い合わせください。
図:CTを用いた凍結療法
図:治療前と治療6か月後(腫瘍は消失)
腎摘出術
次項「大きな限局性腎がん」を参照してください。
経過観察
典型的な腎がんは比較的ゆっくりとした経過をたどることが知られています。
小径腎がんではまずほとんどの方が無症状であり、遠隔転移を起こすことは稀です。(3cm以下なら約3%と言われています。)
以下の状況の場合、すぐには治療を開始せず、定期的(3-6ヶ月に1度)な画像検査により経過を見ながら治療介入時期を決める積極的な経過観察も選択肢の1つです。
- 1cm程度の極めて小さい腫瘍の場合
- 手術中の腫瘍の同定が困難、また良性か悪性かの診断が難しいため
- ご年齢や全身の合併症のため、凍結療法を含めた治療・手術のリスクが高い場合
- 画像検査や腎腫瘍生検を行っても癌の診断がつかない場合
患者さん一人ひとりの状況を全人的に考え、この方針は決定していきます。必ず主治医から十分な説明を聞き、ご不明な点は相談してください。
各治療法の比較
腹腔鏡下腎部切除術 | 腎凍結療法 | 腹腔鏡下腎摘出術 | |
---|---|---|---|
大きさ、部位 | 原則4cm以下(4cm以上でも技術的に可能であれば適応)外方突出型が望ましい | 原則4cm以下(4cm以上でも治療前分子標的薬内服等により可能) | 大きさ、部位を問わず |
麻酔方法 | 全身麻酔+硬膜外麻酔 | 局所麻酔 | 全身麻酔+硬膜外麻酔 |
手術時間 | 3-4時間 | 2時間 | 3-4時間 |
入院期間 | 約7-10日 | 約7日 | 約7日 |
有利な点 | 腎機能温存と確実な腫瘍制御 | 低侵襲 腎機能の良好な温存 | 最も確実な腫瘍制御周術期合併症が少ない |
不利な点 | 出血、感染といった周術期合併症が多い | 残存・再発が多く再凍結療法が必要な場合がある | 腎機能悪化 |
当院での小径腎がんに対する治療件数の年次推移
千葉県における腎がんの治療件数(2015.4-2016.3)
腎がんの治療件数は千葉県No.1!!!腎がん専門センターとして年間約100件の手術(凍結療法、部分切除、腎摘出)を行っています。 (https://caloo.jp/dpc/disease/904/12)
大きな限局性腎がんの治療法
直径4cmを超えるが腎臓ならびに周囲への浸潤にとどまっており、転移を認めない腎がんの標準治療は根治的腎摘出術です。(直径が4cmから7cmのもので、腫瘍の部位により部分切除が可能であれば腎部分切除術を行います。)
根治的腎摘出術には腹腔鏡手術、開腹手術の2つの方法があります。
①腹腔鏡下腎摘出術:小さな創で術後の痛み少なく回復が早いのが特徴です。手術時間は約2-3時間、入院期間は約7-10日間です。
②開腹腎摘出術:周囲への浸潤が疑われる大きな腫瘍や腎静脈への腫瘍の進展、腹部手術の既往がある方は開腹手術でより安全に手術を行います。手術時間は約4時間、入院期間は約10日間です。
転移を認める腎がん
腎癌がよく転移する部位としては、肺が最多ですが、リンパ節、骨、肝、脳等全身に転移する可能性があります。
手術後何年も経過してから転移が出現することもあるため、定期的なCT検査による経過観察が重要です。
治療は薬物療法を行います。
分子標的薬という癌細胞の増殖を抑える薬を使用します。分子標的薬にはチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)とmTOR阻害薬という2つの薬理作用の異なる薬があります。
分子標的薬は外来通院で治療できる反面、副作用が多いのが特徴です。手足症候群や高血圧、血小板減少、甲状腺機能低下、下痢等が代表例です。詳細は主治医から説明させていただきます。
また、2016年9月より免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ®が保険適応になりました。自身の免疫細胞を活性化させ、抗腫瘍効果を狙うという新しい薬剤です。初回は1泊2日の入院で導入、それ以降は外来で投与可能です。