排尿障害とは
- おしっこが出にくい、勢いがない・・・
- おしっこの回数が多くてぐっすり眠れない・・・
- 残尿感がある・・・
- 尿が漏れてしまう・・・
生活を苦しめるこれらの症状は、総称して「排尿障害」と呼ばれています。
排尿障害を引き起こす疾患は、膀胱炎などの感染症を除いて大きく以下の3つに分類されます。
- 前立腺肥大症
- 過活動膀胱
- 神経因性膀胱
前立腺肥大症
前立腺肥大症とは
前立腺は、尿道を取り巻く内腺という部位と、その外側を包む外腺という部位に分かれています。前立腺肥大症はその内腺にできものができることによって徐々に内側に膨らんでいき、尿道が狭くなることで起こります。発生する場所が前立腺癌とは違っているため、症状も多彩です。
前立腺肥大症が進行すると、尿の勢いが弱くなる、残尿感、頻尿、夜間頻尿などの症状が起こります。また狭窄が強い場合には尿が出なくなってしまうこともあります(尿閉)。
残尿が多いことで頻尿となる場合もあり、しっかりと残尿をなくしてあげるようにすることが大切です。
前立腺肥大症は腹部超音波検査、残尿測定、ウロフローメトリー(尿の勢いや時間を調べる検査)、MRI検査、膀胱鏡検査等を用いて、適切な治療法を決めていきます。
またご本人が困っている症状が一番大切で、それを良くすることが非常に重要です。
IPSS:1-7:軽症 8-19:中等症 20-35:重症
QOLスコア:0-1:軽症 2-4:中等症 5-6:重症
前立腺肥大症の治療
①薬物治療
- α-blocker(タムスロシン、ナフトピジル、ユリーフ等)
- PDE5阻害薬(ザルティア®)
- 5α還元酵素阻害薬(アボルブ®)
- 抗コリン薬(ベシケア®、トビエース®、バップフォー®、ステーブラ®等)
- β3作動薬(ベタニス®)
前立腺肥大症は、尿道が狭くなり尿が出にくくなることが大きな原因です。
α-blockerやPDE5阻害薬は尿道平滑筋の弛緩により出口を広、尿を出すようにすることができます。
また、大きな前立腺の場合、5α還元酵素阻害薬という前立腺そのものを小さくする薬も使われています。
前立腺肥大症により膀胱がダメージを受け、頻尿、切迫感等の症状(畜尿症状)が生じることがあり、この場合、 α-blockerやPDE5阻害薬に加えて、抗コリン薬やβ3作動薬を使用します。
これらの治療で改善がない場合や、感染症や尿閉などを繰り返す場合は手術治療が必要となることがあります。
②手術治療
薬物治療に抵抗性の場合、狭くなった前立腺を内視鏡で削る手術を行っています。経尿道的前立腺切除(TUR-P)や経尿道的前立腺核出術(TUEB)などの治療があり、約1週間程度の入院で手術を行います。
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)とは
前立腺肥大症に対する手術療法で、最も多く行われている方法です。ループ状の電気メスを装着した内視鏡を尿道内に挿入し、患部をテレビモニターで見ながら、肥大した前立腺組織(腺腫)を尿道粘膜とともに切り取る手術です。前立腺肥大症に対する手術的治療法のなかで、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)は現在の標準的手術法となっています。手術は、前立腺の大きさによって異なりますが、通常2時間ほどで終了します(腺腫が大きい場合はさらに長時間を要します)。尚、麻酔法は、脊椎麻酔や硬膜外麻酔などの下半身麻酔が主ですが、全身麻酔を併用することもあります。
経尿道的前立腺切除術(TURP)術後の一般的経過
個々の患者さまにより違いはありますが、一般に手術後は以下のような経過をたどります。
経尿道的前立腺切除術(TURP)でおこりうる主な副作用・合併症
血尿
ほぼ全員にみられます。血尿の程度によっては再度手術室で内視鏡的に止血します。
発熱
多くの場合、術後2~3日間発熱します。時には38℃以上の高熱が出ることがありますが、通常、抗菌薬を予め投与しますので大事には至りません。
疼痛
多くの場合、術後2~3日間疼痛があります。このときには鎮痛剤を使い疼痛を和らげます。
逆行性射精
射精の際、精液が尿道から外に出ず膀胱の方に逆行する現象です。
経尿道的前立腺切除術(TURP)では50~80%の頻度でおこります。
精液は尿道からは出ませんが射精感は多くの場合保たれます。
尿失禁、尿閉
血管系合併症(肺塞栓症、深部静脈血栓症など)
その他
経尿道的前立腺切除術(TURP)の入院期間と費用
通常、術後4~6日目頃に退院となりますが、 病状・術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。
過活動膀胱
過活動膀胱とは
加齢とともに膀胱の筋肉が硬くなり、尿が貯まることにとても敏感になった状態です。
過活動膀胱になると、少しの尿が溜まっただけで膀胱が収縮し、頻尿になったり、トイレに行こうとしても間に合わずに漏らしてしまったり、排尿した後すぐに尿意を催したりするといった症状がみられます。
50歳以上の女性の8人に1人が過活動膀胱と言われています。
尿検査や残尿検査、排尿日誌をつけたりして状況を確認します。
図:OABSS
尿意切迫感が2点(質問3)以上かつ合計スコアが3点以上
0-5:軽症
6-11:中等症
12-:重症
過活動膀胱の治療
- 行動療法
過活動膀胱であると診断されたら、まずは漏れる前にトイレにいく、時間のあるときにトイレに行くなどの行動を心がけるように指導します。 - 薬物治療
抗コリン薬(ベシケア®、トビエース®、バップフォー®、ステーブラ®等)
β3作動薬(ベタニス®)
行動療法に並行して、膀胱の筋肉を緩ませてあげることで膨らませやすくし、頻尿症状や切迫感を軽減する治療を行います。
主な原因は加齢であるため、薬の効果は即効性に乏しく、根気強く効果が出るのを待ちましょう。
神経因性膀胱
神経因性膀胱とは
膀胱の機能である、尿を貯める、尿を押し出すという調節が崩れてしまい、何らかの排尿障害を来たす状態を神経因性膀胱と呼びます。
脳疾患や脊髄疾患など明らかに神経障害を来たす原因のはっきりしたものと、調節障害の原因がよくわからないものもあります。
尿検査、残尿測定、超音波検査などを用いて、排尿/蓄尿のどちらがどの程度障害されているのかを見極めていきます。
原因があれば原因の治療も並行して行うことが重要です。
中枢性:パーキンソン病、認知症、水頭症、脳梗塞など
脊髄性:脊髄損傷、脊髄腫瘍、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄など
末梢性:糖尿病、大腸癌や産婦人科の手術の影響など
神経因性膀胱の治療
軽度の排尿障害や蓄尿障害には薬物治療を行います。
一方高度の排尿障害があり、残尿が多く、腎機能障害が起きたり、感染を繰り返したりする場合は、自己導尿(カテーテルを自分で差し込み重力を使って排尿する)や膀胱カテーテル留置などを行います。
術後の一時的な残尿の増加に対してこのような処置を行うこともあります。
間質性膀胱炎
尿が溜まって膀胱が拡張すると、痛みを感じたり、強い尿意を覚えたりすることがあります。現時点で原因は不明ですが、膀胱内にハンナー潰瘍という変化が現れることで引き起こされる間質性膀胱炎という疾患の可能性があります。
尿検査、残尿検査、超音波検査、決定的な診断には膀胱鏡検査で易出血性のハンナー潰瘍を同定することです。
また過活動膀胱とは違い、若年者でも発症する可能性があります。
治療は手術治療(水圧拡張術)や薬物治療などを行います。
尿失禁
尿失禁とは
立ち上がった時や、重いものを持った時、あるいは我慢できずに漏らしてしまうといった症状を尿失禁と呼びます。
出口の筋肉が緩んでしまうことで、腹圧がかかると漏れてしまう「腹圧性尿失禁」や、急に強い尿意が出て、同時もしくは尿意に引き続いて尿がもれる「切迫性尿失禁」の2つが代表的な尿失禁です。
- 診断
お話を伺った後、尿検査、超音波検査、CTやMRIなどの画像検査を用いて原因を突き止めます。尿失禁には後述するように様々な種類があり、どのタイプの尿失禁なのかを診断することがとても重要です。 - 治療
骨盤底筋体操の指導による腹圧性尿失禁の改善、内服治療などを用いて治療を行います。子宮脱など、他の原因があれば婦人科とも連携して治療を行います。
(当院では手術による治療は行なっておりません)
尿失禁の種類
- 腹圧性尿失禁
急に立ち上がった時や重い荷物を持ち上げた時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入ったときに尿がもれてしまう状態。女性の4割以上が悩まされます。骨盤底筋群の緩みが原因と言われ、加齢や出産を契機に出現します。
治療:骨盤底筋体操、薬物治療(β2刺激薬)、だめなら尿道スリング手術 - 切迫性尿失禁
急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまう状態です。過活動膀胱や脳血管障害などが原因と言われ、男性では前立腺肥大症も切迫性尿失禁の原因になります。
治療:抗コリン薬、骨盤底筋体操 - 混合性尿失禁
①と②の病態がどちらも失禁の原因となっている状態です。 - 溢流性尿失禁
自分で尿を出したいのに出せない不全尿閉の状態です。排尿障害が必ず根本にあり、代表的な疾患は、前立腺肥大症です。
治療:尿道カテーテル留置、自己導尿 - 機能性尿失禁
排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁のことを言います。
経尿道的前立腺切除術(TURP)の入院期間と費用
通常、術後4~6日目頃に退院となりますが、 病状・術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。
外照射療法
③組織内照射治療
図5:膀胱全摘術
図6:腹腔鏡下膀胱全摘術(イメージ図)